スポンサーリンク

作家の三木笙子は、東京創元社から2008年に発売された短編集『人魚は空に還る』でデビューした女性作家です。デビュー作を含む『帝都探偵絵画』シリーズが人気となり、文庫本化、漫画化もされました。

このデビュー作以降、他の出版社でも多数の作品が世に出され、評価されています。かくいう私も三木先生の新しい作品が出る度に書店に買いに走るファンの1人です。

そんな三木笙子ファンの私が個人的におすすめする6つの作品を紹介・解説していきます。

スポンサーリンク

三木笙子のデビューにして代表シリーズ!『帝都探偵絵画』とは?

三木笙子は、作品一覧表紙と裏面のあらすじを見ると大体分かりますが、探偵か助手のどちらかがめっちゃ美形であり、尚且つ最初から信頼し合って一緒に事件を解いていく、というストーリーです。探偵と助手共に全ての作品で男性で、友情と親愛と見る人から見たらちょっとブロマンスみたいな雰囲気があるのが、三木作品共通の特徴です。

やはりそんな三木笙子と言えば、デビュー作である『帝都探偵絵画』シリーズは外せません。小さな出版社の記者・里見高広と、容姿端麗で帝都随一の売れっ子絵師の有村礼の2人がコンビを組み、身の回りで起こる不思議な事件を解決していく、というのがシリーズ共通の設定になります。

一見すると容姿端麗の礼が探偵役かな、と思いきや、実は心優しい雑誌記者の高広が探偵役となります。礼は高広がある事件を目の前で解いたこと、そしてシャーロック・ホームズに憧れを抱いたことから、高広を探偵役に据えて「事件を解いてみせろ」と、ある種の強要をするのです。

断るかわざと解かなければいいのに、高広は次々と事件を鮮やかに解いていくので、それにより礼も上機嫌になり、満足して次の事件を探すのです。事件と言っていますが、三木先生の作品の事件は殺人などでなく、身の回りで起こる不思議な現象や人物・依頼を事件として解決していくものなので、作中で血なまぐさいことが起こることはほぼありませんのでご安心を。

男女の馴れ初めが描かれた『氷のような女』を紹介!

私がこのシリーズで特におすすめしたい話は、第2作目の『世界記憶コンクール』より『氷のような女』と『黄金の日々』、3作目『人形遣いの影盗み』より『びいどろ池の月』の3作品です。

『氷のような女』は、高広の義父の基博と義母のよし乃の馴れ初めから始まるお話です。舞台が帝都なのは同じですが、高広たちのいる時代よりも何十年か前になります。タイトルのように「氷」に纏わる事件と、それを解決する基博とひょんなことから彼と出会い、後に妻となるよし乃との淡い恋模様も描いています。

氷をつくる過程で、手間を惜しんで簡単に作ろうとすることで不純物が混ざり、それが原因でコレラといった様々な病気が応じる基になる悪水氷。それを巡る事件が、意外なところで基博と関係していき、よし乃にも氷により狂った人の魔の手がしのびかかりますが、そのとき基博は――?

今と昔も共通しているのは、基博の生きる道は、灼熱のような熱さが染み入るいばらの道でありながらも、その横に初心と恋心を思い出してくれる清涼剤のようなよし乃がいれば、例えどんなことがあっても乗り越えていけるだろう、というような希望と少しの甘さが含まれているお話です。

この話でなんとなく分かるのですが、基博も高広も自然と周りに人が集まるような習性なのは同じ、ということも窺えてほっこりします。

男同士、女同士の友情が描かれた『黄金の日々』、『びいどろ池の月』!

『黄金の日々』は第1作目、『人魚は空に還る』の中の『真珠生成』という話に出てきたキャラクター、森恵の美術学校での日々ととある事情を抱えた同級生と、彼に纏わる事件の話です。この話では終始学生同士の掛け合いが見れて若いなー、とほっこりします。

また、「人の悪口言ったりする暇があるなら作品つくってればいいのに、自分たちは道は違えど目的地は一緒だから勿体無い」みたいなことを恵が思う場面があるのですが、個人的にそこがハッとさせられましたし、新鮮でとても気に入っている場面です。あとは事件の首謀者に新鮮な馬糞投げるところとか。痛さは我慢できても人間気持ち悪さは我慢できないですよね、特に女性なら。

『びいどろ池の月』は、新橋の花街にある御茶屋「びいどろ」の芸子・花竜と友人の圭子たちとの間で巻き起こる事件を軸に描いた話です。圭子が何故学校でわざと問題を間違えたのか、受けたい学校に必ず誰でも受かる、という事件のからくりが焦点になっています。

高広と礼もですが、花竜と圭子の固い友情も話の魅力です。花竜にとって圭子は夏の日に湧き出る泉に似ている、といったそんな表現が彼女たちの絆を物語っています。花竜が会ったことのない父を、母と共に慕って談笑する場面もほっこりして胸に染み入ります。

花の都と天狗の事件を描いた爽やかな作品『金木犀24区』を紹介!

次に紹介するのは、角川書店から発売されている『金木犀24区』です。これも短編の連です。

『花の都』と謳われている東京23区には、24区目の「金木犀24区」があり、そこで和花中心の花屋をしている木下秋は、『靡き(なびき)』と言われているほど植物の扱いに長けています。

天狗の逸話が信じられているこの街で、秋の家に山伏の佐々木岳が来てから、天狗の仕業と言われる奇妙な事件が次々起こり、それは次第に秋の存在と出自にも関わる問題になってきます。

あらすじだけ見ると暗い感じがしますが、物語は終始ちょっとしたギャグが入るような、明るいテンポで進みます。特に秋と岳と岳の同僚の敦志、3人の掛け合いが面白いです。高校時代に日本史か世界史のどっちを習ったかとか、紀伊半島は何処かとか。

一番気に入っている場面は、人に言えない秘密を話す時に、秋が「暗いとこで話すと暗い雰囲気になるから明るくしよう」って電気を点けて、岳をぽかんとさせるところですね。あっけらかんとした、何処か吹っ切れてる秋のには清々しさを感じます。

私は三木作品の中でも、1、2を争うくらいの高さでこの作品が好きなのですが、その理由はやっぱり主人公の秋とその仲間然り、何かを抱えながらも明るく生きているところと、話し全体に清涼感といいますか、一陣の風が吹いているような気がするからです。これも天狗の所為なんですかね。

ジュニア文庫といって侮るなかれ!『月の王子 砂漠の少年』の魅力!

次いで紹介するおすすめ作品は、小学館ジュニア文庫から発売されている『月の王子 砂漠の少年』です。砂漠の国の第2王子、アリーと親友のサリフは、何でも願いを叶えてくれる女呪術師を皮切りに、周辺で次々と起こる事件に次第に追い詰められていくアリーを守るサリフですが、真の敵が姿を現した時、2人の行く末はどうなるのか。

三木作品らしい、少年同士の友情を交えた推理小説です。ジュニア文庫らしく漢字にルビが振ってあり、字も大きく見やすいですし、他と違い作中に幾つか挿絵があるのが嬉しいです。しかしジュニア向けと侮るなかれ、各事件のトリックや動機、登場人物の事情は大人向けで、大人のファンでも十分楽しめます。

加えて、普段の作品よりページ数が少なく読み易い分、コンパクトにサクッと読むことが出来ますし、結末も納得できる作品となっているので、活字があまり得意でない方にもおすすめです。

アリーの王子らしからぬ優しさやら、サリフに見せるちょっとした我儘と、サリフの洞察力優れているのに、アリーの前だと幾分か無邪気になるところとかが好きです。サリフの決められた運命に抗うアリーと、それを嬉しく思いつつも心配して達観してるサリフとか。

あとは挿絵にもなってますが、アリーを守るために寝てないサリフに礼を言ったら、いびきで返事されて、背中殴りつけるアリーのところが好きですね。

『決壊石奇譚―百年の記憶―』、その見所を紹介!

最後におすすめするのは、講談社から発売中の『決壊石奇譚―百年の記憶―』です。私は単行本版しか持っていませんが、ターコイズや紫などの様々な鉱石の色が表紙に使われていて、幻想的で綺麗な感じです。

高校1年生の徹は、同級生の大地に誘われて地学部に入部しました。大地と過ごすうちに、彼には特定の石に触れると石の前の所有者の記憶が読み取れるという、不思議な力を持っていることを知ります。更に祖父から記憶を受け継ぎ、親友と交わしたとある約束を守っていると知った徹は、約束から大地を解放したいと思い、ある決意をしたのです。

水晶や瑪瑙に琥珀といった鉱物から記憶、真実をあぶりだし、そこから様々な思いが交差していくのが本作の見どころです。何千年何百年経っても石の姿は変わらないという大地のフレーズと、大地が家に来てお風呂を入っているときに祖父と共に、彼を泊まらすために靴を隠そうとするところが何ともお茶目で好きです。

まとめ 

今回はちょっといやかなり長めな記事となりましたが、そこからおすすめ度が分かっていただけたら嬉しいです。ここでもう一度三木笙子のおすすめ作品の概要をまとめます。

①三木笙子の代表的なシリーズ『帝都探偵絵画』は、心優しき雑誌記者と美麗の絵師が贈る、探偵奇譚。

②『世界記憶コンクール』に収録されている『氷のような女』には、高広の義父母の馴れ初めと、氷に纏わる事件が収められている、淡い甘さが漂う物語。

③『黄金の日々』には美術学校での青春が、『びいどろ池の月』では女同士の固い友情とそれに纏わる事件が描かれている。

④『金木犀24区』には花の都で「靡き」と天狗に纏わる事件がポップ且つ爽やかにまとまっている。

⑤『月の王子 砂漠の少年』は、高学年向きのジュニア文庫ながら、大人でも楽しめる登場人物やストーリーが展開されていき、コンパクトに読める作品。

⑥『決壊石奇譚―百年の記憶―』は、石に纏わる力と事件、約束の顛末を描いた作品。

三木作品は殆どどれも単作ですので、どの作品から読んでも楽しめるのが特徴であり良い所です。先にも書きましたが、殺人事件でなく、日常や周辺で起こる事件が常ですので、軽く読めると思います。

特に美形と美形との友情、親愛関係を読みたい人にはどれもおすすめなので、図書館でも書店ででも、1度手に取って頂けたらファン冥利に尽きます。

<こんな記事も読まれています>

スポンサーリンク
おすすめの記事