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江戸川乱歩と言えば、明智小五郎や怪人二十面相のような探偵もので、一世を風靡した作家です。しかし乱歩の真骨頂は探偵ものでなく、「エロ・グロ・ナンセンス」といわれる通俗小説だとも言われています。

乱歩の通俗小説の中でも、特に『人間椅子』や『芋虫』は有名です。特に『人間椅子』の、椅子職人が椅子の中に入って過ごすという、とち狂った発想と気持ちの悪くなるような描写は、乱歩にしか不可能でしょう。

明智小五郎が出演する作品の中でも、『屋根裏の散歩者』などでは乱歩の通俗小説で用いている、通俗的な設定と描写がなされています。初期の頃から乱歩の通俗的な片鱗が表れていたんですね。

乱歩の書いた通俗小説の中でも『盲獣』は、乱歩自身が失敗作と評価し、桃源社版の「江戸川乱歩全集」刊行の際には、物語後半の一部を削除しているほどです。

では、この『盲獣』はいったいどんなストーリーなのか?何故失敗作としているのか、削除された範囲には何が書かれていたのか?という、ことを解説していこうと思います。

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気になる乱歩の通俗小説、『盲獣』のストーリー!

『盲獣』は、出版社、博文館の『朝日』に1931年2月から1932年3月まで連載された、通俗小説です。この頃の乱歩は、『孤島の鬼』『芋虫』といった特有の通俗小説を書き続けていた時期です。通俗小説を量産していた、とも言われています。

年齢不詳、住所不定、本名不明の盲目の男、通称「盲獣」。浅草歌劇の踊り子の水木蘭子は、そんな盲獣のいる地下室に連れ込まれます。彼の本性を知らない蘭子は、地下室の世界にのめり込んでいく。しかし、盲獣は狙った女をさらって弄んだ挙句、散々弄んでおいて飽きたらその女を殺すという、残虐非道な男だった。水木蘭子にも飽きた盲獣は、その恐ろしい本性を現し始める。

盲目の殺人犯でもある主人公が、自分の為に作った女性のあらゆる部位を形どった触覚の部屋で、次々と女性を残虐するという、乱歩らしいエロティックな描写が入ったグロテスクな通俗小説です。

単なる部屋でなく、さりげなくしかし濃厚なエログロ要素を取り入れた、触覚の地下室で弄んだ女性たちを次々に惨殺する、という所に乱歩らしさが表れていますね。ただでは殺さない、といいますか。

江戸川乱歩が『盲獣』を一部削除した経緯とは!?

この、ザ・通俗小説という風格漂う作品を、発表当初乱歩は気に入らず、失敗作として見ていました。しかし、桃源社の江戸川乱歩全集を発行する際に、乱歩は『盲獣』を読み直しました。

そのとき、乱歩は自分の作品がエログロと言われて探偵小説を毒していると非難されているのは、このようなひどい変態物があるからだとし、本当はこのような作品は全集には入れたくないが、このような気に入らない作品を省いていくと、半分以上無くなって全種の意味が無くなる、としています。

乱歩は上記の理由から、この作品は目を瞑って載せることにはしたが、作者の自分自身が吐き気を催すほどの気持ちの悪さを覚える終盤、「鎌倉ハム大安売り」という章の原稿用紙の7、8枚分だけは削らせてもらい、前後の辻褄が合うように文章を直したので、ご了承ください。

という旨を載せ、宣言通り、一部の章を削除した形で全集に『盲獣』を掲載しています。あのエロ・グロ・ナンセンスが売りで、世間が望むように通俗小説を文字通り量産して、平気で読ませていた江戸川乱歩らしからぬ発言ですね。そんなにも度の超えた気持ちの悪い変態だったのでしょうか。

『盲獣』の削除された章、そして殺人鬼の最期とは!

乱歩ほどの作家が吐き気を催すほど気持ち悪いと称し、削除せざるをえなかった『盲獣』の終盤の「鎌倉ハム大安売り」の章ですが、創元推理文庫版『盲獣』では完全版として全ての章が掲載され、発売されています。

作者本人が嫌がってたのに載せてもいいのか!?と思いますよね、私もそうです。乱歩可哀想。読んだ人の感想では、「鎌倉ハム大安売り」と言う章の名前からして、大体どんな惨たらしい殺人を加工した内容かは想像つくと思いますが、人によっては読了後に肉やハムが美味しく食べられなく可能性がある、と指摘しています。

そして一部削除、言いようによっては隠したともいえることをしたからには、乱歩自身の本性が曝されているのか、と思いきやそんなことは無く、ただただ悪趣味でグロかった、とも書かれています。

物凄くネタバレになりますが、盲獣は自分が手掛けた女性たちの手触りを、巧妙に再現した彫刻を作り上げて展覧会でその出来を絶賛される中、自らの作品を愛撫しながら服毒自殺を遂げます。

盲獣が死ぬ時も一筋縄ではいかず、通俗小説らしいエログロ要素を取り入れるのも、流石は江戸川乱歩といえますね。展覧会中に自殺するとか迷惑極まりない行為で、後始末物凄く大変そうですよね、特にお客さんへの説明とか、正直に話すのも憚られそうですよね。

まとめ 

江戸川乱歩の『盲獣』のストーリーや、一部削除の過程などを中心に、今回は解説してきました。この記事を読むだけでも、耐性の無い人はどんな内容か想像して気分が悪くなるかもしれないですね。
ではこの辺りで、書いてきた『盲獣』についてまとめてみましょう。

①『盲獣』は、盲目の殺人鬼の男が、女性たちを弄び残虐する様をエログロを用いて書いた、江戸川乱歩の通俗小説。

②『盲獣』の章の一部削除は、乱歩自身が読み直して吐き気を催すほど気持ち悪くなったから。

③削除された章は、悪趣味でグロい内容で、当の盲獣は最期には服毒自殺を遂げる。

今まで散々書いてきたように、『盲獣』は作者の江戸川乱歩さえも気持ち悪いと言った、変態通俗小説です。ですが、ちょっと普通の小説じゃ物足りない人、乱歩作品の更に上を行きたい人には、おすすめさえ出来ませんが、一度ちょっとだけ目を通しても良いかもしれませんね。吐き気催すかもしれませんけど。

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